他の生物に寄生して生きるウイルスの「真相」感染免疫学の専門家・岡田晴恵教授が提言!【新型コロナウイルスと闘う③】
新型ウイルスの犠牲になる人、重症化する人
◼️流行予測はどうやって行うのか?
インフルエンザの流行予測には、世界の流行動向に関する正確な情報が必要となる。 そこでWHOでは、世界122カ所の各国内インフルエンザセンターから、流行状況に関する情報を定期的に集め、それを整埋・解析してホームページ上で公表している。 国内では国立感染症研究所の感染症情報センターが、小児科医療機関3000カ所と内科2000カ所を定点観測地点として、全国からの流行情報を収集・解析して報告している。
一方、各国で分離されたウイルスは、世界4カ所(米国疾病管理予防センター、英国国立医学研究所、オーストラリアWHOインフルエンザセンター、日本の国立感染症研究所)のWHOインフルエンザ協力センターに送られ、詳細な抗原解析と遺伝子解析が行なわれる。日本だけでも、 国内74カ所の地方衛生研究所を中心に毎年1万株におよぶウイルスが分離・解析されており、 世界全体では数万株のウイルスが解析されて、膨大な情報が集積されている。
毎年2月(北半球対応)、9月(南半球対応)に、先の4カ国のWHO協力センター長とワクチン承認・品質管理機関の専門家が会議を持ち、世界中から寄せられた疫学情報や、現在までの流行状況と流行ウイルスの実態および変異の方向性や速度などの把握を行なう。 さらに、代表的な抗原変異株に対する年齢別の抗体保有状況の調査成績などを参考にして、 今後どのような抗原変異ウイルスが流行の主流となるかを判断し、来シーズンの流行を予想する。
また、今シーズンのワクチンを接種された人の血清抗体が、これらの流行予測ウイルスに 対してどの程度、抑制効果を持つのかを調べ、ワクチン株を変更する必要があるか否かを判断する。 国内においては、国立感染症研究所が厚生労働省の委託を受けて、1〜3月にかけて専門家による検討会を数回開催してワクチン製造株を選定し、5月末に厚生労働省がワクチン製造株を告示している。このようにしてインフルエンザのワクチン株が毎年決められ、ワクチンが製造される。
◼️インフルエンザの怖さは毎年少変異し、何十年かに一度大変異すること
ウイルス自身が変化しやすいインフルエンザウイルスであるが、その「変異」にも大きく2つの区別がある。 図に示したのは、インフルエンザウイルスがHAやNAの遺伝子変異によって、前年に流行したものと表情を変え、変化する様子である。左向きの矢印が示すように、元のウイルスから少しずつ変わっていくのが毎年流行するインフルエンザである。これを「連続抗原変異」というが、イメージとしては乗用車でいうマイナーチェンジというところである。連続抗原変異は抗原性が少しだけずれた「小変異」であるために、感染はしても、過去のインフルエンザ感染時の免疫記憶がある程度交差して働く。
◼️26年間隔で新しいウイルスに変身してヒトの間で大流行
これに対し、右向きの矢印のように、まったく異なるインフルエンザウイルスに大変身することがある。これを「不連続抗原変異」といい、「大変異」ともいう。ウイルスの外見が突然フルモデルチェンジをして、 新しいウイルスに変わることを示している。このようにHAやNAがまったく別のものと入れ替わった新しい抗原性を持つウイルスの中で、ヒトの間で伝播し大流行するような性質のものを「新型インフルエンザウイルス」という。
インフルエンザウイルスの怖さは、毎年少しずつ変化することに加えて、何十年かおきに (20世紀の新型インフルエンザを例にとれば平均して26年の間隔で)大変異をして、この「新型」が出てくることにある。(「新型コロナウイルス感染症と闘う④」へつづく)
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